マナーはcuriosityからはじまる
2023年1月31日皆さま、ごきげんよう。
わたくしは、マナーに関する仕事をするようになってから、気がつきますと20年近く経過しております。
それらの経験をもとに、マナーの原点はどこにあるのかということを本日はお話をしたいと存じます。
わたくしが起業したての頃、「マナーは思いやりの心」というキャッチフレーズを掲げておりました。
それは間違いではなく、思いやりが大切というのは、国内外において普遍的であると言えるでしょう。しかし、そこにひとつ落とし穴がございます。主観性が強くなりますと、独りよがりとなってしまい、お相手のためではなく自己満足でしかなくなってしまうという点です。
十人十色。皆、考え方や価値観などすべてが違います。お相手が「自分に親切にしてくれている、思いを理解してくれている、寄り添ってくれている」などと感じる言動でなければ、思いやりをもって接してもらったとは感じてもらえません。
また、「マナー」という言葉は、たった一つの正解があるような誤解を与えてしまっているため、「マナーは思いやり」という言葉は、より一層、目の前にいるたったひとりのために自分は一生懸命して差し上げているという錯覚を招くことに繋がってしまいやすいのではと考えるようになりました。
ですから、「私はあの人のことを思いやって、こんなにマナーも正しく振舞ったのに、分かってもらえない、伝わらなかった」という現象・不満が生じるのです。(そもそも、人に何かして差し上げた際に、見返りを求めないことがお互いのためですが)
本当に自然とマナーができる人になりたい、人のためにマナーを発揮できる人になりたい、人間関係を構築したい、と考えるのでしたら、たった一つの正しいマナーの型を追及したり、独りよがりの思いやりを捨てみるとよいでしょう。
まず、一般的に正しいと伝承されている暗記のマナーの価値は、5~6割ほどの効力しか持ちません。しかも、単に失礼がない程度のものです。本当にマナーの持つ力を発揮するためには、はじめに申し上げた「思いやり」が大切ですが、繰り返しになりますが、独りよがりでは意味がありません。
では、独りよがりにならない思いやりを持つためには、何が大切なのでしょうか。
一番土台になりますのは「curiosity」です。お相手への興味からすべてが始まるのです。お相手に興味がなく、お相手をあまり知らない状況では、お相手の望むことはして差し上げることは難しいと考えます。
スマートフォンへの依存やSNSが流行している現代、知らず知らずのうちに、お相手への興味より自分に興味を持ってもらいたい方が多くなっております。そこからも、上記のことを裏付けることができるのではないでしょうか。
お相手に心から興味や好奇心がないから、お相手に合った真の思いやり・真のマナーを発揮できる人材が少ないのではないでしょうか。
英国公的機関の方々と合同で企業研修を担当いたしました際、打ち合わせの雑談の中で、「結局一番大切なのはcuriosityだよね」と、両社でお話をしたことを懐かしく思い出しました。curiosityがないところに、マナーもコミュニケーション意味がない、どんなに頑張っても人間関係は構築されません。
お相手に興味をもって、心で聴くことで、お相手の思いにかなった思いやりの言動、マナーができるようになるのです。
わたくしがこれまで受講生から受けた質問のベスト5のうちのひとつは、「どのようにしたらお相手の名前を覚えることができるのでしょうか」「記憶力が悪いようで、お相手の顔と名前を覚えることができないのです」ということです。
これは、記憶力の問題ではございません。興味の問題です。特にビジネスシーンでの打ち合わせで、初対面の方を覚えられないという場合には、自分の仕事のことや話すことで頭や心が多くを占めてしまっており、お相手そのものに本気で興味を持っていないから覚えることが難しいだけです。目の前の方に集中すること。そうすることで、「名前が覚えられない」という自分目線から、「名前とあわせてこの人はどのような人であるのか」知ろうというお相手目線に変わるのです。
そのような過程で、名前を覚えたりお相手への理解が深まったりするものです。
ここまでお読みいただきますとお気づきの方もいらっしゃるかと存じますが、お相手に興味を持つということは、自分の心に余裕がないとできないことなのです。(もちろん、性格も関わってまいりますが)心に余白がなければ、興味どころではないですし、記憶にも残りません。だからこそ、余裕をもって過ごすよう心がけることも大事なのです。
わたくし自身、昨年からの入院・療養を通して、本当に心の余裕をなくするということを経験いたしました。「余裕がないと、人はこんなにも自分のことしか考えられなくなるものなのだ」と。
この経験から、わたくし自身、どんなときも少しは心の余白を持てる人でありたい、そう思いました。そして、今後の自身のさらなる成長のため、よりよい教育者になるために活かしてゆきたいと心に誓いました。
長文になりましたが、まとめますと、
(心の余裕)→お相手への興味→思いやり→お相手の思いにかなったマナー
です。
本年こそは、マナーを身につけたいと思っていらっしゃる方は、自身から周囲へベクトルを変え、そして目の前の人にしっかりと興味を持つように心がけましょう。何より、頑張りすぎず、いつでも心に余白をとっておきましょう。
それが、ゆくゆくは、ご自身にとり良い形となって返ってくることでしょう。
長文お読みくださり、誠にありがとうございました。
日本プロトコール・マナー協会
船田三和子
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